血と骨

在日朝鮮人や裏社会をテーマに、数々の力作を送り続けている梁石日の代表作の一つで、最近ビートたけし主演で映画にもなったこの作品ですが、恥ずかしながら未読で、映画化を機に文庫版を購入。沖縄旅行の鞄に入れ、帰りの羽田行きの飛行機の中で3分の2を一気に読破しました。その後、東京から実家への高速バスの車中で残りを一気に読み終えたのですが、強烈なパワー、スピード感のある作品で、読み出すと止まらないような凄みがあります。昭和期における在日朝鮮人を書いた歴史小説とも、主人公、金俊平の人生を描いた、一人の悪漢の大河小説とも、儒教国家・朝鮮における家族の問題を描いた小説とも取れる作品ですが、私はこれは「神話」と規定するのが、最も正確なんじゃないかと思います。作中における金俊平の存在感はあまりにも強烈であり、人間離れしていて、それでいて凄まじい人間臭さがあります。映画の宣伝文句通り、正に「怪物」という他ありません。これは、金俊平という怪物を描いた神話である。そう言ってしまえるほど、このクソ親父は滅茶苦茶で、かつ伝説的です。その生き様には到底共感は出来ないのですが、そこには人間の業、性、いやらしさ、欲、そういったものが垣間見え、結果として人間の生について、喉元に刃物を突きつけられるようにこちらに否応無しに考えさせるのです。周囲の人物も、俊平に負けず劣らず、中々の曲者揃いで、そこでは俊平にない、人間の善性も、俊平と異質の悪性も補われています。決して巨悪、俊平に存在感を消されていないのです。好き嫌いははっきり分かれると思いますが、この人間描写は一見の価値ありでは。
ちなみに、映画自体はまだ見ていませんが、かなり登場人物の設定をいじっているようで、この作品の肝である部分が損なわれている危険がありそうです。最低でも、小説とは別物と考えて見に行こうかと。