『アフターダーク』

一応、前に「書評書く」と言った手前、させて頂こうとは思うのですが、読後それなりに時間が経っても、書評の書きにくいという印象は変わらないし、正直もやもやが相当に残る小説でした。村上春樹は元々、こういう一見ファッショナブルでいて暗い作品の多い作家だし、読み手としてもそれは了解して読んでいるのですが、どうも、私の中ではこの作家の近年、もっと具体的に言えば『ねじまき鳥クロニクル』以降の作品は、波長が合わないのです。
こうなると書評と言うより、作家論になってしまうのですけれど、たぶん私のもやもやの正体は、変化する作家の内容と、変化しない文体とのギャップなんじゃないかなと思います。あとは、現実が作品の暗さを追い越してしまったが故に、変にリアリティが付随されていて不気味であるとか。そう言えば、オウム真理教関係のノンフィクションは、それはそれで小説やエッセイとは別物として読んだけど、丁度『ねじまき鳥〜』と同時期だったかも。どうもあの辺から、村上春樹は元々あった閉鎖性が、狂気じみたものに惹かれる方向に向かったような気がするのです。それが、あの軽い文体に乗ると、私としては拒絶反応に近い部分が出てくるのかも知れません。今回の作品で言えば、白川がまさにそういう薄気味悪さを感じさせられる人物であり、その白川は、村上春樹の自画像であるようにも受け取れます。
今後、新境地が開拓されるようなら、元々好きな作家だし、注目することになるのでしょうが、しばらくは作品が出る度に、今回のように違和感を感じ続けることでしょう。あるいは、それがずっと続くかも知れません。今更若者を書くことを彼には期待していません。むしろ、老人を題材にした作品でも出してくれば、と思っていたりします。いや、本気ですよ。