なぜ中田は引退したのか?

驚きましたね、中田の引退宣言。
たぶん同じネタは多数のブロガー(って言葉は英語として通用するのかいな?)が書くことでしょうが、たまにはベタなネタも。いろいろな問題点を含むネタですし、書きたいこともありますから。
驚くのはその引退年齢の若さ。一流選手としては異例でしょう。今回のW杯限りで引退を表明しているフランスのジダンは34歳。今シーズン限りで引退したロイ・キーンは35歳。確かに全盛期ほどの動きの切れはなくなっていたとは言え、今回のW杯を見てもまだ日本人ではトップクラスの力があるのは間違いなく、現に昨日までは形式上フィオレンティーナに復帰したものの、これからどこに移籍するのか注目されていただけに、本人と限られた関係者以外には青天の霹靂と言うべき今回の宣言。タイミングこそ最も自然な時期ですが、SHINJOの「ヒーローインタビューで引退宣言」(余談だが、この試合途中まで東京Dで観戦しており、当日中に東京から自宅に帰るため途中退席した。一緒に観戦した知人からのメールは最初理解出来なかった)に匹敵する、あるいはそれ以上のインパクトがあると言っても過言ではないでしょう。彼の公式ページnakata.netには本人からのメッセージが記されていますが、それも踏まえた上で判断すると、
どうも中田英寿の引退理由は日本のサッカーへの失望ではないか
と思えるのですよねえ。
勿論、あからさまにそうは書いていないし、直接の理由については口を閉ざすも、彼自身、今大会限りでの引退は半年前からの決断と言っています。でも、一見穏やかで希望的なメッセージには、見落とせない記述―チームに自分の思う「実力を100%出す術」を伝えられなかった、というのがあり、このことへの彼の落胆は表向きに書いた以上に大きいと思うのです。そして、このことだけでなく、日本サッカーを覆う状況の多くに彼は落胆していたのではないのかな、とも思ってしまいます。
草の根レベルでのサッカー熱はJリーグの誕生した13年前とは比較にならないほど高くなってきました。今や私の住む街にもフットサル場がありますし、新潟や中田の故郷である山梨など、それまで必ずしも「サッカー王国」ではなかった地方都市でも、地元チームが存在感を示すようになってきました。J2、JFLも含めると、プロ野球どころではない地域密着ぶりです。それでも、それは「フットボール中毒者」という限られた人種に留まっているのではないか、という疑念を捨てられないのです。全国メディアは日本代表と海外リーグ以外はなかなか取り上げませんし、それを追うことで満足する人達が大多数ではないか、というのが、今回のW杯報道と非サッカー中毒者を見ての率直な感想です。そういう状況を最前線で嫌というほど味わったであろう中田の失望というのは、容易に想像できます。
カズはその状況を変える意味でも、自身がJ2のチームに行くことでの反響を想定しているように見えますが、中田はそこまでするほどピークは過ぎていないし、代表を変えられなければ意味がないという思いもあるからこそ、今回の判断に踏み切ったのでしょう。
しかし、中田をして打ち破れなかった壁は何だったのか。ここからは全く個人的な見解ですが、今回のドイツ大会でアジア勢は全て一次リーグで敗退したこととも関係があるのではないか、と私は考えています。アジア的中庸思想、もっと言えば儒教思想とサッカーは、本質的に相容れないような気がするのです。儒教の影響が強い韓国がそれなりに強いのは、兵役免除のニンジンと彼らの闘争心がプラスに働いているためで、必ずしも儒教思想が好影響を与えているとは思いません。サッカーの代表チームというのは国民性が出る、とはよく言われますが、快楽主義的かつ攻撃的スポーツであるサッカーは、儒教的価値観の短所、即ち没個性、保守性、前例主義などと相性が悪く、それゆえ儒教的価値観を持つ多くの日本人は、本質的にこのスポーツを受け入れ難い体質を持っているのではないか・・・。これは極端な仮説ですし、精神論で片付けたくはないのですが、ジーコの個人技重視路線の失敗の原因も含めて、どうもこのファクターは無視できないのではないか、という気がします。中田は過去の言動などから見るに儒教型の人間ではなく、また、海外でのプレーも長いことから、これに近いことを考えていても不思議はない、と思うのです。
国民性など一朝一夕で変わるものではないですが、果たして数十年後、日本のサッカーはどう変化していますか。精神変革を問う前に、誰しもが認めるであろう基礎体力、技術的問題もあります。ただ、Jリーグがレベルアップして盛り上がるようであれば、案外国民性も変わってくるやも知れません。結局、我々の思考というのは習慣の蓄積の結果であり、面白いサッカーのある日常は、そうでない状態にあるのとは違う思考をもたらすでしょうから。
しかし中田にはまだまだ期待することがあったのですが。魅力的なセンスのある若手選手が代表に現れれば、中田の経験と戦術眼、そして彼の言うところの「実力を100%出す術」を注入することでの相乗効果があったと思われるだけに、その早過ぎる引退は残念です。せめて彼の意思、「伝えたかった」ものだけでもきちんと汲み取って生かさないと、私の極論が仮に正しくなくても、日本サッカーに未来はない、これだけは断言していいでしょう。