皇帝を超えるか

ディープインパクトの三冠達成から一週間が経ち、このこと自体は無敗の三冠馬を見せてもらった、という意味で感謝すらしていますが、次走予定が有馬記念とのJRA公式発表(これ自体異例ですが)を受け、正直少し落胆すると共に、時代の変化を感じずにはいられませんでした。
私はディープインパクト以前の無敗の三冠馬「皇帝」シンボリルドルフの現役時代に関してリアルタイムで知っているわけではありませんが、今から十年以上昔の競馬初心者時代に、当時としては過激なほど先進的で、高い志を抱いていた「チーム・ルドルフ」のトップホースマン達に書物から強く刺激を受け、それが私の競馬観の基礎の一部になったことは間違いありません。シンボリルドルフの強さというのは既に語り尽くされていますが、私がこの馬とスタッフに最も非凡さを感じるのは、無敗の三冠達成ではなく、3歳(当時の年齢表記、以下同じ)時の育成方針と、無敗で菊花賞を制した後のジャパンカップへの中一週での強行軍です。ルドルフはJCで初の敗戦を喫するのですが、万全の状態でないにも関わらずあえて出走させたのは、外国馬との力の差を確認するためだったと言われています。勿論それは、海外遠征を睨んでの長期的戦略というわけです。
ディープインパクトのJC回避については、日本馬の海外遠征が当たり前になり、海外調教馬との比較の必要性が当時ほどないこと、JC自体が国内において特別なステータスを持つレースではなくなりつつあることなどが背景にあるでしょう。来年を見据えて今年は無理しない、という考えもあるかも知れません。それでも、ルドルフの時代に比べて出走は格段にしやすくなり(現在は一ヶ月以上の間隔が空く)、調教技術も格段に進歩しました。一つだけ問題があるとすれば、ディープインパクト関西馬であり、関東所属のルドルフと違い二度輸送があるという点ですが、皐月賞→ダービーの時も同じ問題はあります。あくまで馬のコンディションが第一ではありますが、JC→有馬を完勝の上、来年は海外進出という「皇帝越え」のシナリオを期待していただけに、拍子抜けではありました。厳しい戦い(あくまで常識的ローテーションの範疇でですが)の連続で安定した成績を残す事もまた、名馬の条件の一つだと思うのですが。